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  • 鈴木 孝幸

脊椎動物の後ろ足の位置の進化(多様化)の仕組みを解明 ヘビの胴体が長い謎分かった!

更新日:2020年9月14日




【ポイント】

■ 脊椎動物の後ろ足は、背骨の中の“仙椎”という骨に骨盤を介して接続しています。今回GDF11というタンパク質が、仙椎の位置に、必ず、後ろ足と骨盤を作る働きを担っていることをつきとめました。

■ 卵の中や胎内で体がつくられる過程で、GDF11が働くタイミングが早いとカエルのように胴体が短く(頭から後ろ足までが近く)なり、働くタイミングが遅いとヘビのように胴体が長く(頭から後ろ足までが遠い)なることがわかりました。

本研究により、絶滅してしまった生物を含む地球上の全ての脊椎動物の後ろ足の位置が進化(位置の多様性を獲得した)した仕組みが、初めて明らかにされました。

【研究背景】

私たちヒトを含む脊椎動物の体の中心には背骨(せぼね)があります。背骨はたくさんの脊椎骨(せきついこつ)が1列に並んだ構造をしており(図1)、脊椎骨は形の違いで頭に近い方から頸椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙椎(せんつい)、尾椎(びつい)と呼ばれています。私たちの後ろ足は骨盤(こつばん)を介して仙椎に接続しています。


様々な動物の骨格を見てみると(図2)、今、生きている動物だけでなく、既に絶滅してしまった恐竜や首長竜、ヘビの祖先で手足を持つテトラポドピスに至るまで、あらゆる生物種において、後ろ足は仙椎に接続していることがわかります。このように、仙椎の場所に後ろ足が形成されるメカニズムは、進化の過程で非常に良く保存されています。進化の過程で脊椎骨の数は大きく変化していますが、後ろ足は必ず仙椎の位置に作られます。

 これまで、なぜ、後ろ足は必ず仙椎の場所に作られるのか、また、進化の過程でどのようにして後ろ足の位置が多様化していったのかは、全くわかっていませんでした。


【内容】

“進化”は、受精卵から体がつくられ産まれる直前までの状態である「胚」の“発生過程”の変化の蓄積によって起こります。私たちは、様々な脊椎動物において、後ろ足ができる時の発生過程を調べれば、なぜ、後ろ足が、必ず、仙椎の場所に作られるのか、また、進化の過程でどのようにして後ろ足の位置が多様化していったのかを、明らかにできるのではないかと考えました。

 まず、私たちは、体の発生過程を観察しやすいニワトリの胚を用いて後ろ足の発生メカニズムを詳細に調べました。その結果、胚の中でGDF11(ジーディーエフイレブン) 1)と呼ばれるタンパク質が働き始めた場所が、将来の仙椎になることがわかりました(図3)。さらにGDF11タンパク質は仙椎になる組織の隣の組織(専門用語で側板中胚葉2)という名前の組織です)にも働きかけて、そこに後ろ足と骨盤をつくることを発見しました。この発見により、脊椎動物の後ろ足が、必ず、仙椎の位置に作られているメカニズムが世界で初めて明らかにされました。


次に、私たちは、動物種間で後ろ足の位置の違いが生まれる仕組みを調べるために、脊椎動物の中で胴体が短い(頭から後ろ足までが近い)ものと、胴体が長い(頭から後ろ足までが遠い)もの、合わせて9種の動物においてGDF11の働き方を調べました。

 その結果、カエルやカメなどの胴体が短い(頭から後ろ足までが近い)ものは、発生中にGDF11が働き始めるタイミングが早く、エミュー(鳥の仲間)やヘビなどの頭から後ろ足までが遠いものでは、GDF11が働き始めるタイミングが遅いことがわかりました。

 この結果から、進化の過程で後ろ足の位置が多様化していった原因は、GDF11というたった1つの遺伝子から作られるタンパク質の発生中に働くタイミングが異なるためであることが明らかになりました(図4)。


【成果の意義】

GDF11は、ヒトを含むすべての脊椎動物が持っています。よって、地球上に存在する多様な形態を持つ脊椎動物すべてにおいて、後ろ足の位置の多様性はGDF11というたった1つの遺伝子から作られるタンパク質が働くタイミングが、胎児期に異なることで生み出されたと考えられます。特に、ヘビは他の動物と比べてGDF11が働き始めるタイミングが極めて遅いために、長い胴体を持つことがわかりました。

 後ろ足の位置の多様性に代表される生物の大進化は、これまで進化学の分野では体の形を作るHox遺伝子(ホックス遺伝子)3)の変化によって引き起こされたと考えられてきました。今回の研究で、GDF11はHox遺伝子の働く場所をまさに制御している働きを持つことがわかりました。これにより、生物の形態の大進化は、思った以上に少数の遺伝子による単純なメカニズムによってもたらされたことが推測されます。

GDF11の機能を阻害すると胴が長くなり、体の下半身全体の位置がずれることがわかっています。今後は、胎児期にGDF11の作用するメカニズムをさらに調べていくことで、仙椎や後ろ足だけではなく、下半身全体の器官の位置がどのように決まるのか明らかになることが期待されます。

【用語説明】

GDF11):細胞の外に分泌される分泌タンパク質。仙椎が形成される場所で特異的に働き、隣接する後ろ足の元の組織である側板中胚葉にも作用し、仙椎が形成される位置に後ろ足の形成をスタートさせることがわかりました。

側板中胚葉2):後ろ足が形成される前の発生段階で将来の後ろ足を作る細胞がいる場所の総称

Hox遺伝子3):ホメオティック遺伝子とも呼ばれ、動物の初期発生の段階で体の前と後のそれぞれの場所に形を作り出すために必須な重要な遺伝子

【論文名】

Nature Ecology and Evolution(ネイチャーエコロジーアンドエボリューション)

DOI: 10.1038/s41559-017-0247-y

“Anatomical integration of the sacral-hindlimb unit coordinated by GDF11 underlies variation in hindlimb positioning in tetrapods”

(GDF11による仙椎—後肢ユニットの協調的発生機構と後肢の位置の多様性が生み出される仕組み)

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